役職なし、昇進なし。
HRテックの革命児に聞く
働きがいのある組織の作り方。

株式会社アトラエ

成功報酬型求人メディア「Green」や組織改善プラットフォーム「wevox」などのサービスを展開し、2018年に東証マザーズから東証一部への市場変更を果たした株式会社アトラエ。先進的なサービスのみならず、役職を撤廃したフラットなホラクラシー型組織や個々の裁量に任せた自由な働き方などユニークな組織運営でも大きな注目を集めている。2019年には世界最大級の意識調査機関Great Place to Work®による「働きがいのある会社」ランキング1位を獲得した。今回は社員がいきいきと働ける組織づくりに向けて革新的な取り組みを続ける同社の代表取締役である新居佳英氏に話を伺った。

※ 従業員25~99名部門でランキング1位

理想の組織を作る
“アトラエ的プレミアムフライデー”

まずは御社の「アトラエ的プレミアムフラデー」(以下ATPF)について聞かせてください。

新居代表:ATPFをはじめたのはちょうど世の中でプレミアムフライデーという言葉が流行りだした2017年頃です。アトラエでもなにかしようという話が出たのですが、当社は元々、出退勤時間も自由なので、普通のプレミアムフライデーの導入はあまり意味がない。そこで、アトラエならこんな時間の使い方をしたいよねということをADM(管理部門)のメンバーが話し合って、通常業務から離れた、日常あまりできていないことを議論しようということから始まったと記憶しています。

それを聞いて、社長としてどう思われましたか?

新居代表:へーって(笑)。彼らがやるというからには僕に反論する権限はないので。やってダメならやめればいいという感じでしたね。

「日常あまりできていないこと」とは例えばどういうことですか?

新居代表:テーマは毎回変わりますが、例えば現状の組織の課題だったり、より良い組織にするためには何が必要なのかといったことですね。最近、僕らが「アトラエスタンダード」と呼んでいる会社のバリュー(価値観)を刷新したのですが、それを浸透させるためにディスカッションするなど、普段なかなかできないことをやっていますね。日常業務から離れた中長期的なもの、重要だけど緊急じゃないことについてみんなで議論しようよって。

ATPFは金曜日の16時からとのことですが、仕事の手を止めて参加しないといけないことに反対意見はなかったのですか?

新居代表:なかったですね。まあ、月曜よりいいんじゃないですか。世の中もプレミアムフライデーって言ってるくらいですから一番カットしやすい時間帯ではないでしょうか。16時から3時間ほどやっていますが、とくに反対意見は聞かないですね。
とはいえ、ATPFの企画運営に実は僕はあまり関わっていないので、よくわからないのですけどね。

まったく関与していないんですか?

新居代表:もちろん何か相談があればアドバイスはしますけど基本的には全て任せています。来月こんなテーマでやろうと思っているんですが、他にもっとやるべきものはありますか?といったことを聞かれることもあるので、僕なりに提案はしますが、“それはちょっと微妙ですね”なんて言われちゃうこともあります(笑)

それだけ意見が自由に言えるフラットな環境なんですね。ちなみにテーマはどなたが決めているんですか?

新居代表:ADMの誰かが決めることもありますが、固定でこの人がというのは決まっていませんね。次回でいうとバリューの刷新に携わったメンバーが、バリュー浸透のために時間を使いたいということで彼らが枠を抑えています。そんな感じで必要に応じて誰でも使える時間です。

職種や年代をミックスしてディスカッション。
重要なのはテーマ選定。

初回はテーマなしで開催されたんですよね。

新居代表:そうですね。この時間をどうやって使っていこうかというディスカッションをしました。ぼんやりとしたテーマだったので、はっきりとした結論が出たわけではありませんが、そもそも議論をまとめることが目的ではないんです。意見がたくさんでればいいやっていう考え方なので、面白い意見があったら次回それについて議論しようとか、ネタ集め的な感じでしたね。

何名くらい参加されたんですか?

新居代表:ほぼ全員なので50名ほどでしょうか。10チームくらいに分かれて話し合って、最後にどんな話をしたか発表するという流れです。チームの分け方はテーマによって変えています。年代や職種を合わせたり、逆にミックスしたり。

部署や職種を越えた交流は、以前から活発だったんでしょうか?

新居代表:50名くらいなのでまだ全員の顔と名前は一致しますし、日常業務で関わりがなくても普段から職種や年代を超えた交流はわりと多いですよ。ランチに行ったり、イベントを開催したり、それこそ普通の飲み会的なものもありますし。ATPFももちろんそのうちの一つです。部署間の壁など一切ないので、普段仕事で関わらない人とのコミュニケーションってわりと当社では普通のことですね。

やってみてどのように感じていらっしゃいますか?

新居代表:いろんな意見を聞くことができるし、みんなの意思がそこにあるなら続けてもいいんじゃないかと思っています。テーマによってはあまり意味がなかったという意見が出ることもありますが、それはATPFの問題というより、テーマ選びの問題ですね。テーマの設定を間違えるとすごく無駄な時間になるので。

どんなテーマがダメでしたか?

新居代表:ざっくりとしたテーマだと話だけして終わって、議論が深まりづらいですよね。たとえば「会社の行動指針についてどう思うか」みたいなテーマだと、「うちは結構ポジティブな意見でまとまりました」っていう感じでなんの学びもないというか。
いろんな人といろんな角度でコミュニケーションをとることがひとつの目的でもあるので、それはそれでいいんですけど、オープンクエスチョンの場合は、なんとなくもやっと終わる場合が多いですね。

では逆に有意義な議論となったテーマはどんなものですか?

新居代表:グループディスカッションとは違う形式ですが、“創業者にモノをいう”というテーマですかね。事前に僕に対する質問や不満を集めて、みんなが聞きたいと思う質問から順に並べて僕が答えていきました。
これはもともとグーグルでもやっている取り組みなんです。社員が集まってラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンになんでも質問できるっていう。僕は50人からいろんなことを言われるわけですから、決して嬉しい時間ではないですけど、みんなが興味あるならやるよって。
でもやってみて僕にとっても気づきはたくさんありました。伝わってないんだなってわかることもありましたし、こんなこと心配してるんだって驚いたり。バリューを刷新したのも、このときに「最近全然バリューについて言わなくなったのはどうしてですか」って聞かれたことがきっかけになりました。

飲み会が嫌なら、行かなければいい。
日本に必要なのは人材の流動化。

ATPFは飲みながらディスカッションするんですよね。

新居代表:それは自由なので飲んでる人もいます。うちは昼夜関係なくいつ飲んでもいいんですよ。お酒に限らず、ルールは最低限しか設定していません。
さすがに朝っぱらから飲んでいる人はいませんけど、飲むか飲まないかの判断は全員の自己管理に任せています。僕も時々、経営者仲間がお土産を持ってきてくれたりすると、昼間でも飲みながら話すってこともありますよ。
夕方から夜にかけては誰かしら飲んでますね。帰りにパッと飲んで帰ることもあれば、何人かで飲むこともあります。自然と交流が生まれていますね。

社内にあるバーカウンターでは、社員同士の交流が自然に生まれる。

こういったオープンスペースがあると、社員同士が交流しやすいですよね。では、そういった自然発生的な飲みではなく、イベントとして行われるいわゆる「会社の飲み会」については、どう思われますか?

新居代表:うちでも中途入社の人の歓迎会とかアプリのリリースが終わったときの打ち上げや、同期会なんかもやっているみたいですが、オフィシャルな飲み会は忘年会と新年会、社員総会くらいです。もちろん参加はすべて任意です。家が遠い人やお酒を飲まない人、小さな子供がいる人など多様な人がいるので、参加を強制するのはどうかと思いますね。

飲み会に参加することでメリットはあると思いますか?

新居代表:そうですね。カジュアルなコミュニケーションの中で生まれる信頼関係とか心理的安全性とかはあると思います。
うちでもリーダーシップを取りたい人には、できる限りそういう場に顔をだしてみんなと話した方がいいとは伝えていますが、やるかやらないかは任意。うちはイヤならイヤってみんな言いますし、強制することはないですね。

イヤだと言えずに参加しているという人が世の中にはとても多いようですが。

新居代表:いやなら断ればいいと思いますけど、飲み会に行かないと評価が下がるとかなんですかね。
でもその会社で働く選択をしているのは結局自分なんですよね。ただ、問題の根底にあるのは人が自由に動ける環境がないことだと思います。
もっと人の流動化がすすめば、経営者が社員を惹きつけるために努力しないと、この会社魅力ないなってみんな辞めてしまう。そうなると会社は魅力を生み出そうと頑張りますよね。そのサイクルを回さないと、日本から魅力的な会社がなくなってしまうのではないでしょうか。

なかなか流動化が進まないのはなぜでしょう?

新居代表:昔の大企業って、会社の周りに塀を作って「ここにいれば君の将来は保証するし、家族のことも守ってあげる。でもその代わり塀の中では僕らの言う通りにしてね。壁の外は危ないからここにいると安心だよ」ってことをやっていたんですよね。いわゆる終身雇用をエサに社畜の状態にしちゃってた。そんな時代でも、賢い人は壁の外が見えていて、どうやら外は楽しいみたいだって飛び出してしまうわけですよね。
でもさすがに今の時代、どんなに高い壁をつくっても外の状況ってわかりますよね。本来なら壁なんて作って社員を囲む必要はなくて、真ん中に旗を立てて、「これを実現したいから手伝って」って言えば、共感した人が集まってくる。これがチームであり、これを会社と呼ぶべきだと思うんです。

なるほど。壁は必要ないということですね。

新居代表:そうですね。うちはやりたいことが他にあるなら、いつやめてもいいんです。ただ、やめる人はそんなにいません。定着率はかなり高いです。

では最後に今後、御社に必要なものはなんだと思いますか?

新居代表:取り組みや制度は、僕から発信するものもありますが、それだけではないんです。みんなが必要だと思うものは積極的に導入していきますし、そういう意味では能動的・自律的に意見がでる風土を維持し続けることですね。
僕が個人的にあれをやりたい、これをやりたいということはあまりなくて、みんなが発信しやすい環境をつくることが大切だと思っています。

ありがとうございました。

社員インタビュー

回答者:株式会社アトラエ Administrator 林 亜衣子

林さんは中途入社なんですよね。以前はどんな業界にいらっしゃったんですか?

林さん:監査法人系列のコンサルティングファームからの転職です。

前職では飲み会に参加されていましたか?

林さん:そうですね。普通に参加していました。私自身、みんなでワイワイするのもお酒も好きなので、飲み会にイヤな印象ってないんです。ただ、前職で長く働く中で、飲み会に参加するのがイヤだという若い人が増えてきたなということは感じていました。

なるほど。ではATPFの立ち上げについて聞かせてください。

林さん:元々アトラエメンバーは、組織や事業について話すことが好きなんですが、これまで全員でしっかり時間をとって組織にフォーカスした議論をしたことがないかもしれないなと思ったんです。そこで私から、理想の組織を語る会をしてみませんか?とFacebookのグループチャットで提案したところ、みんなが興味を持ってくれたのがきっかけですね。

ATPFを立ち上げたのは林さんなのですか?

林さん:いえいえ、それはほんの一端です。それから何度か有志のメンバーで集まってディスカッションをしていたのですが、それが形を変えてATPFになりました。

最初は一部の人たちで集まって話すというものだったんですね。

林さん:一部というか、社員のほぼ全員が参加したいといってくれたので40名以上です。人数が多かったので3回に分けて開催したりしていました。

どんなトピックでディスカッションされていたんですか?

林さん:理想の組織ってどんなものだろうとか、どういうチームならその理想に近づけるのかとかですね。問題意識があったわけではなくて、みんな組織やチーム、仲間のことが大好きなのでもっとよりよくするためにできることはないかとか。何かをここで決めるというよりは、初めはみんなの思いを共有するという感じでした。ちょうど世の中にプレミアムフライデーが広まりだした頃だったので、じゃあアトラエでも、アトラエらしいプレミアムフライデーをやろうということで全員参加で定期開催するようになりましたね。

導入の際は懸念点や課題などはありましたか?

林さん:営業メンバーにも参加してもらいたかったのですが、営業の時間が制約されるという懸念はありましたね。でもはじめてみるとみんな上手に時間を調整してくれて特に問題はなかったです。最初はせっかくみんなが集まるのであれば、テーマを決めた方がいいんじゃないかという意見もあったんですが、新しい試みですし、気軽にお酒を飲みながら話そうということにしました。ただ、普段あまり業務で関わりのないメンバーをミックスしてグループ分けを行うことだけはこだわりました。

どのくらいの頻度で開催されているんですか?

林さん:最初は月一だったんですけど、今は3ヶ月に一度にしました。最初の数回は、普段接しない人と議論ができるコミュニケーションの場として機能していたんですけど、今はせっかく営業時間に仕事の手を止めてやるならきちんと価値のあるものにしようということで、あえて開催頻度を下げています。時間をかけてテーマ設定をして、最後にはしっかりアウトプットまでもっていけるように構成を考えています。

有意義だったテーマはどんなものですか?

林さん:「社長の頭の中をみんなで覗こう」というテーマの時ですね。社長が普段、どんなことを考えてどういう思いを持っているのか、知りたいことをなんでも聞けるという回はとても好評でした。

印象に残っている回答はありますか?

林さん:それぞれの回答に関して、すべて「なるほど」と納得感があったのですが、一番印象的なのはお給料についての回答です。アトラエの給与水準を上げてほしいという要望に対して、会社側に「給与水準を上げてもらう」のではなく、ビジネスを成長させて自分たち自身で給与水準を上げようと考えてほしい。それができるのがアトラエの良さであり強みであると。社長から直接熱のこもった言葉を聞くことで、みんなも改めてアトラエの価値観について感じられたと思います。

みなさんで飲みにいくことはあるんですか?

林さん:私は子供がいるのでそんなに参加できませんが、社内にバーとフリースペースがあるのでここに集まってみんなで飲むこともあります。チームのメンバーで飲んでいたら、社長がふらっときたり、通りかかった人が参加して飲み会がはじまったり。お酒が常備されているので、自然とそんな交流が生まれていますね。

お子さんがいらっしゃるとのことですが、時短で働かれているのですか?

林さん:週4で時短勤務です。幼稚園にお迎えにいかないといけないので、2時に帰ることもありますが、ATPFのときは子供を連れてきています。子育て世帯も多いので、社内に子供がいるのは珍しくないですね。

上場企業とは思えない柔軟さですね。

林さん:そうですね。本当に働きやすい環境ですし、仕事自体もやりがいがあり、とても恵まれていると思います。だからこそ、会社や仲間にもっと貢献できるように頑張りたいですね。

ありがとうございました。

取材ご協力企業:株式会社アトラエ

https://atrae.co.jp/

インタビュアー:
和谷 尚美(N.plus)

米国の大学を卒業後、現地の出版社に編集者として入社。帰国後、広告代理店や制作会社を経て、2012年よりフリーランスライターとして活動。
http://nplus-w.com/

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