長尾 彰氏 インタビュー 長尾 彰氏 インタビュー

会社の飲み会を通じて、働きやすい職場環境や組織のあり方を考える飲み方改革。今回はスペシャルインタビューとして、20年以上にわたり企業、団体、教育現場などでチームビルディングをサポートしてきた組織開発ファシリテーターの長尾彰さんに、「飲み会」の賛否から、組織づくりに寄与する飲み会の形、そしていかにして強いチームをつくるかについてお話しを伺った。

「心理的安全性」の高いチームだけが
成果を出せるという事実

まず、長尾さんの著書でも触れられているタックマンモデル※1について、お伺いします。タックマンモデルは、形成期、混乱期、統一期と進化していくモデルですが、例えばスポーツチームや恋人同士などプライベートな関係においてはその過程をイメージできても、職場でこの過程を実現することは難しいのではないでしょうか?

長尾さん:タックマンモデルは、こういう物の見方をするとチームが発展しやすくなるというフレームワークであって、必ずしもあの通りになるというわけではないんです。
以前、Googleが世界中にある自社のオフィスで、生産性や従業員満足度が高いチームの共通点は何か、という調査※2をしたことがあるのですが、その結果、共通点はたったのひとつしかなかったんです。
それは“チームの心理的安全性が高い”ということ。ここでは何を言っても否定されないし、失敗してもチャレンジした上であれば評価してもらえる。遠慮は一切しなくていいという関係性のことを心理的安全性の高い組織だと定義されるのですが、タックマンモデルの第一ステージである形成期(Forming)で一番大切なのが、この心理的安全です。

※2 プロジェクト・アリストテレス

多くの組織にとって、その「心理的安全性の高い関係性」を築くことはなかなかハードルが高いですよね。

長尾さん:だから飲み会があるんです。従来、飲み会はお酒の力を借りてリラックスしてなんでも話せる場だったのに、多くの場合、飲み会そのものが非常に心理的安全性の低い場所になってしまっています。だから会社の飲み会に出たくないという若者が多いんだと思います。

無礼講といいつつ、本当に思ったことを言ったら怒られちゃう、みたいなことですよね。では、かつての飲み会は心理的安全性が高かったのでしょうか。

長尾さん:というより、以前は若い人たちに会社で過ごす以外の自由な時間が多かったこともあり、飲み会への参加もそこまでハードルが高くなかったのではないでしょうか。今の人たちって会社以外にいくつものコミュニティに属していたり、趣味もいっぱいあって可処分時間が充実しているおかげで、忙しいんですよね。

時代の変化ではなく、今も昔も組織力の高い会社は、飲み会でも社内でも心理的安全性が高かったのかもしれませんね。そして当然逆も然りで。

長尾さん:そうですね。誰にどんな意見を言ってもいいという心理的安全性がなければ、意見がぶつかり合う混乱期(Storming)のステージに上がれませんから、ほとんどの企業が形成期のまま止まってしまうんです。

では、混乱期以降の統一期(Norming)や機能期(Performing)にステップアップするのはかなり大変だということですね。

長尾さん:形成期 〜 混乱期はグループ、もっと言えば “群れ” という感じで、与えられたルールや役割、目標に対して70点くらいの点数が出せる集団です。
混乱期に入って、頻繁にミーティングで喧々諤々しだすとパフォーマンスが落ちて売上げがぐっと下がるので、経営者は不安になってしまって、形成期に戻してしまう。
でも、混乱期に話し合いながら、ルール・役割・目標を作り出したときにグループはチームへと進化するんです。ビジョンのないところにはチームは絶対に生まれません。

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まずは「あなたとわたしと彼・彼女」。
チームづくりの基本は3人から。

うまくいかない組織に足りないのはビジョンということですね。

長尾さん:アメリカのコンサルタントのサイモン・シネック氏がゴールデンサークルという理論を提唱しています。多くの企業は自分たちの事業を考える時、何をどうやって、なぜやっているか、What → How → Whyという思考の流れなのに対し、急成長している企業は逆で、「Why」から出発するんです。
つまり自分たちの夢やビジョンありきでサービスや商品が生まれる。「Why」という目的なしでチームが生まれることはないんです。

頭ではわかっていても、具体的になにから手をつければいいかわからないという組織のリーダーも多いと思います。どこに突破口はありますか?

長尾さん:うまくいかないのは、おそらく大きな単位で組織づくりをしようとしているからではないでしょうか。
まずは3人。私とあなたと彼・彼女くらいがちょうどいい。2人だと倒れるし、4人だと多数決で割れちゃう。3人ってバランスがいいんですよね。
多くの企業が自分たちの理念やビジョンを掲げていますが、言葉だけのビジョンを毎朝暗唱するよりも、3人が集まって、“うちの会社ってなんのためにあるんだっけ?”といった、おしゃべりから始めたらいいと思うんです。そういう小さいところから始めると、ビジョンが生まれて自然とチームが形成されていきます。
アップルだって、“僕たちの理念を理解してください”なんてわざわざ言わないですよね。製品や商品、サービスを通じて何を大切にしているのか伝えていますし、成長している組織はどこもそうだと思います。

「Why」は言葉で伝えるものではない、ということでしょうか?

長尾さん:言葉だけに頼って伝えるのでは不十分です。言葉だけでは人間の一番原始的な部分に働きかけることができないからです。
多くの経営者が、研修をしたり、話し合いの場をつくることで一体感が生まれると考えているのですが、その時点でチームをつくることが目的になってしまいますよね。そうではなくて、自分たちが信じる製品やサービス、つまり事業が良いチームをつくるんです。

なるほど。では組織づくりのために外部のコンサルティング会社に入ってもらってもあまり意味がないんですね。その分を製品やサービスに投資して理想的な事業を立ち上げることで、結果的に強いチームがうまれると。

長尾さん:そうです。会社を「チーム」の状態に成長させたければ、ビジネスモデル(事業形態)を見直せばいいんです。どうすればみんなが仕事に夢中になれるのか、それをデザインするのが社長の仕事ではないでしょうか。
いい社長って状況に目を向けるんですけど、こういった視点に欠ける社長って仕組みが悪いって構造のせいにしちゃうんです。仕組みのせいにせずに原則(ビジョン)に基づいて今の状況を変えるほうが、解決はむしろ早いと思います。飲み会の良さはそういった状況や原則について、みんなで語れるところなんじゃないかな。

語るためには、心理的安全性が必要だということですね。

長尾さん:はい。あと飲み会の人数があまり多すぎるのもよくないですね。じっくりと語り合うことができる人数は、5人くらいまでが適切だと思います。
15人の部署だったら、3人ずつテーブルを分けて、時間が来たらシャッフルしてもいいと思います。席はお互いの話す内容が聞こえない程度に離して。

それならすぐに取り入れられそうですね。

長尾さん:あと、終わりの時間は決めておくことも大切ですね。

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ほかにチームビルディングで重要なことはありますか?

長尾さん:「Why」から生まれるビジョンがチームを作るという話をしましたが、一人一人が自分の働く理由、「Why」を言葉にして持っておくこともとても大切だと思います。
なんのために仕事をするのか。お金のためであれば、お金がなぜ欲しいのか。そのお金で何を成し遂げたいのか。
何も考えずに毎日自動的に朝起きて会社に行って仕事をして帰ってくるといった人の集まりではなかなかいいチームはできないですよね。

でもそういう人が大多数のような気もします。

長尾さん:そうですね。まずは一人一人にそのことについて考えてもらうことから始めるのもいいかもしれません。
あと、組織を率いる立場の人はよその会社の成功事例を自社にすぐに取り入れがちですが、その会社が成功したのはそのビジネスモデルだからできたやり方であって、そのまま真似をしてもうまくいくわけじゃないんですよね。じゃあどうすればいいかというと、やっぱりまずは3人組で話すことからはじめましょうということです。
あと、社員が自発的に目的やルールを決められるように社長は権限委譲すること。トップに立とうとしないで社長係くらいのスタンスでいることが大切なんじゃないかなと思います。

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本日は貴重なお話、どうもありがとうございました。

聞き手:井澤 博(宣伝ファクトリー) 
文:和谷 尚美(N.plus)
取材日:2018年12月6日

長尾 彰

長尾 彰

組織開発ファシリテーター。企業、団体、教育、スポーツの現場など、約20年にわたるチームビルディングの経験を持つ。文部科学省の熟議政策に、初の民間ファシリテーターとして登用され、復興庁政策調査官としても任用されるなど幅広い分野で活動。著書に『宇宙兄弟 「完璧なリーダー」は、もういらない。』(学研プラス)など。

株式会社ナガオ考務店

※1 タックマンモデル

ドイツの心理学者 ブルース・W タックマンが唱えた5段階のチームビルディング(組織進化)モデル。

① 形成期( Forming )

メンバーはお互いのことを知らない。また共通の目的等も分からず模索している状態。

② 混乱期( Storming )

各自の役割と責任等について意見を発するようになり対立が生まれる。

③ 統一期( Norming )

チームの目的や、業務の進め方、各メンバーの役割が統一・共有される。

④ 機能期( Performing )

チームに結束力や連動性が生まれ、相互にサポートができるようになる。チームとしての成果も出始める。

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