2020年4月7日、日本では史上初となる緊急事態宣言が発令され、不要不急の外出を控える自粛生活を強いられる中、飲み会文化が根付く日本では ZoomやLINEなどのビデオチャットツールを使った「オンライン飲み会」が急速に浸透しはじめた。数あるツールの中でもリリースから1ヶ月でユーザー数が110万人を突破した、今話題のオンライン飲み会サービス「たくのむ」。今回は、開発・運営を手がける1010株式会社の清瀬史代表取締役に、たくのむを使ったオンライン取材で話を聞く。
まずはじめに「たくのむ」を開発した経緯について教えてください。
清瀬さん:きっかけは「家族」と「友人」との物理的な距離を解決したいという個人的な理由でした。私の実家は富山で、両親が飲食店を経営していました。息子として家業を手伝いたいという気持ちはあったものの、東京で仕事をしている限り難しく、それが私の社会人生活で抱えていた罪悪感と課題でした。なんとかして家族との距離を埋められないかと、ずっと考えてきたんです。
また、昨年の12月に大学の同級生と同窓会を企画したのですが、メンバーはみんな新しく家族ができていたり、転勤で他県に住んでいたりと集まることが難しい状況で、中止になってしまって。そのときにオンラインで一緒に飲めばいいじゃないかと、ふと思ったんです。
そうして「オンライン飲み会サービス」の構想は生まれたものの、なかなか具体化できずにいました。そんな中コロナ禍が激化し、それまで2ヶ月に1度はしていた実家への帰省ができなくなりました。外出自粛で会えない人たちが増えているのを肌で感じ、いよいよ開発に注力していきました。
ビデオチャットのサービスは他にもありますよね。それを活用するのではなく新しく開発しようと思ったのはなぜですか?
清瀬さん:ZoomやLINEで飲み会をやればいいかなと思ったのですが、まだ新型コロナウイルスの発生前で「オンライン飲み会」という言葉は浸透していませんでした。弊社の社員はテレワークがメインですので、以前からZoomを活用していましたが、ITリテラシーやインターネットの状況はそれぞれなので、なにかもっと手軽にできるサービスがあればいいなと。
なるほど。確かにZoomや他のサービスだとアプリをインストールする必要がありますが、たくのむだとURLを送るだけですもんね。
清瀬さん:そうなんです。操作がシンプルで手軽に使えることと、人数や時間をそこまで制限せず、使う目的も「飲み会」に絞ったものにする、ということは最初に決めていました。
人数や時間の制限がないというのはうれしいですね。
清瀬さん:はい。今の所、12人まで参加できて時間も無制限です。あと、ビールを連想するような明るいカラーをメインにしたカジュアルなデザインもビジネスツールにはないところかなと思います。
Zoomでも採用されている「Snap Camera」が使えるのもうれしいですね。部屋が散らかっていてもノーメイクでもOK(笑)。
清瀬さん:そうですね。エフェクトはニーズがあるだろうと思っていたので、いろいろ遊んでもらえるとうれしいです。あと、オンライン飲み会はどうしてもだらだらと長時間になってしまいがちなので、最初に飲み会の時間を設定できる機能も好評です。
設定すると強制的に切れるんですか?
清瀬さん:いえいえ、時間が来たら「一次会を終わります。二次会に行きますか?」というメッセージがでるようになっています。続けるにしてもほどよく小休止ができますし、終わるときでもいいやすいですよね。
「たくのむ」は売上の一部を、飲食店を支援するサービスおよび団体に寄付されているんですよね。
清瀬さん:はい。好きな人と時間を共有できるサービスをつくりたいというのがきっかけでしたが、つくっていくうちに飲食店の支援もしたいという気持ちが生まれてきました。
今、みんな外出を我慢している状況が続いていますが(※取材日は5月12日)、やはり両親が飲食店をしていたこともあり、厳しい経営状況に追い込まれている飲食店の辛さもよくわかります。飲食業界で頑張る人たちの力に少しでもなることができたらと思っています。
サービスの起点であるご両親への想いが飲食業界全体の役に立っているというのはとても素敵ですね。
清瀬さん:ありがとうございます。まだ実現できていませんが、宅配機能の実装も予定しています。あとは飲食店支援の一環として、福岡の「SAVE THE うまかもん/おいしい九州プロジェクト」に参加しています。
どんなプロジェクトなんですか?
清瀬さん:福岡の飲食店を応援し、地元のおいしいものを守りながら、おうち時間をハッピーにしようというプロジェクトなのですが、私たちは「福岡おうち酒場」というサービスにたくのむのシステムで参加しています。
このプロジェクトが提供するデリバリーサービスで食事をオーダーしていただき、たくのむ内にある「福岡おうち酒場」のルームに入れば、そこにいる人たちと一緒に飲める、というサービスです。実際の店舗の方がルームをオープンすることもできますので、「常連さんに会えない」というスナックやバーのママやオーナーさんがルームを開いて、オンライン上でお客様と一緒に飲むことができます。
おもしろそうな取り組みですね!今後、福岡以外のお店でも使えるようになるんでしょうか?
清瀬さん:そうですね。今後は誰でもたくのむ内に出店できるようにして、実店舗を持たない普通の方や芸人さん、インフルエンサーなど色んな方に参加していただければいいなと思っています。
「たくのむ」はリリースからわずか1ヶ月でユーザー数が100万人を超えましたよね。バズらせるための仕掛けなどあったのでしょうか?
清瀬さん:実は「こんなサービスをリリースしました」とツイッターで発表しただけでプロモーション的なことはほとんどしていないんです。こんなにたくさんの方に使っていただけたのは、タイミングとサービスの趣旨に尽きると思います。
物理的な距離があっても、オンライン上で気軽に飲めるサービスを構想しているときにコロナウイルスの問題で一気に需要が高まったという感じですか?
清瀬さん:そうです。まだ企画段階のときに世の中がこういう状況になって、これは急がないとダメだろう、と。ノルウェーのビデオ会議システム「Whereby」にAPIを使わせて欲しいと連絡して、そこから急ピッチで開発を進めました。
Wherebyとはスムーズに契約できたのですか?
清瀬さん:バズるかどうかもわからないので、あまりコストはかけられないということがありましたが、「このタイミングでリリースすることがいかに重要なのか」を必死で伝えました。彼らは日本の状況もよくわかっていて、僕らの熱意も理解してくれて、お互いにとっていい条件で契約することができましたね。
世界中で使われているWherebyのAPIなら心強いですよね。
清瀬さん:そうなんです。たくのむが短期間で一気にユーザーが拡大したときも、大きなトラブルにならなかったのはWherebyの盤石な通信基盤のおかげです。
ただ、あまりにも多くの人に使ってもらえているので、日本の飲み会がWherebyのサーバーを圧迫しているようで(笑)。向こうで「日本の飲み会すごい」って思われているみたいです。
向こうではオンライン飲み会ってやらないんですかね?
清瀬さん:バーチャルコーヒーといって、オンラインで一緒にお茶をしたりするのが今流行っているみたいです。そういったカジュアルチャットのニーズが高まっていたところに、たくのむの話が来たので理解をしてもらいやすかったのかもしれませんね。
なるほど。日本の飲み会は今、ノルウェーに支えられているんですね(笑)
今日はお忙しい中、ありがとうございました。たくのむの新しい機能にも期待しています。
清瀬さん:はい。楽しみにしていてください。ありがとうございました。
インタビュー:和谷 尚美(N.plus)
取材日:2020年5月12日