常見陽平氏 インタビュー 常見陽平氏 インタビュー

千葉商科大学国際教養学部で教鞭をとりながらも「働き方評論家」として大学生の就職活動、労使関係、労働問題、キャリア論、若者論を中心に、執筆・講演など幅広く活動されている常見陽平氏。リクルート、バンダイといった大手企業での会社員経験を持つ常見氏に、働き方評論家の観点から「会社の飲み会」の是非を伺いました。

仕事で達成感を得られるようになると、
飲み会が楽しくなってくる。

常見さんは新卒でリクルートにご入社されて、その後バンダイに転職されていますよね。会社員時代の飲み会はいかがでしたか?

常見さん:入社3年目くらいまでは会社の飲み会を楽しいと思ったことはなかったですね。上司と飲めば大抵説教だし、同期と飲めば愚痴ばっかりで。
楽しめるようになったのは20代後半くらいからでしょうか。そのあたりから、将来もし自伝を出すならそこに書きたいくらいの飲み会をいっぱい経験しました。

印象に残っている飲み会について聞かせてください。

常見さん:リクルート時代に名古屋でトヨタ自動車との合弁会社の立ち上げを任された頃のことです。最初は派遣社員を含めて社員は20名くらいの小さな組織で、僕は広報とマーケティングを担当していたのですが、取材の対応や顧客向けセミナーの開催などとにかく忙しくて。

OJTソリューションズ ですよね。今は社員100名以上の会社です。

常見さん:そうなんです。そこでは一から組織を作って大きくしていくという貴重な体験をさせていただきました。その中で忘れられないのはトヨタ出身で、リーダー的存在だったNさんのことです。
東京でメディア対応やビデオ撮影をしたり、顧客企業を回ったりとバタバタの1日を過ごしたことがあったのですが、終わってから新幹線の時間まで余裕があったので、二人で食事に行こうとなりました。Nさんは帰って仕事がしたかったようで、最初はしぶしぶ僕に付き合ってくれていたんですけど、飲みながら男泣きが始まって…。

どうしたんですか?

常見さん:Nさんは当時50代後半で、話をするうちにその食事というか飲みの席が、定年前のNさんにとって人生を振り返るような時間になったみたいです。その涙を見たとき、最後にいろんな思いを共有できて本当によかったなと思いました。

常見陽平氏常見陽平氏

そのプロジェクトでは頻繁に飲み会をされていたんですか?

常見さん:そうですね。プロジェクトが一山超えたときなどはみんなで飲みに行って達成感を共有することができました。あとは各地方でのセミナーの後もよく行っていましたね。経費ではなく割り勘なんですけど、みんな参加するんです。居酒屋の小さいテーブルでぎゅうぎゅうになって “商談決まったなー!” “いいセミナーだったなー”とか言いながらの飲みは本当に一体感があって。
新幹線の中でも、修学旅行状態でずっと話し続けていました。もちろん飲みながらですが(笑)。

わかります。そういう前向きな話をしながら飲むお酒って本当においしいですよね。

常見さん:だから結局飲み会が楽しいか否かよりも、会社や仕事が楽しいかどうかなのかなって思います。

殴りたいくらい嫌いな相手も、
お酒を飲めば心の距離はきっと縮まる

具体的にはどんな飲み会がいい飲み会だと思いますか?

常見さん:人数はなるべく少なくて、自腹ででもいいやって思える飲み会かなぁ。

やはりそれはメンツによるという感じでしょうか。

常見さん:それはありますよね。好きな人となら行きたいもんね。でも飲み始めるときに嫌いでもいいんですよ。終わった時に好きになっていなくても、飲んでよかったなって思えればオッケーなんじゃないですかね。

あまりいい印象のない人でも、一緒に飲むことで距離が縮まることはありますか?

常見さん:ありますね。実は僕、第一印象がお互いに最悪だった人と飲み会をしたことがあるんですよ。

どうしてそんなことに(笑)

常見さん:これもリクルート時代の話なのですが、入社12年目のトップ営業マンが社内報になんだか意識の高いことを書いていたんです。
当時僕はまだ入社4年目くらいの若手だったのに、イントラネットに “何意識高いこと言ってんだ” みたいなことを書き込んだんですよ。それで向こうも “このやろう” って腹を立てたみたいなんですけど、僕が誘ったのか向こうが誘ってきたのか、広報がセッティングしたのか忘れましたが、そんな大先輩とサシで飲む場を設けられてしまって。

それはかなり緊張しますね。嫌な汗がでそうです。

常見さん:ですよね。でもね、飲み始めて10分で意気投合しちゃって。

そうなんですか?

常見さん:相手は書き込みを見て殴ってやろうかと思ったって言っていましたけど、早かったですね。打ち解けるの。

それは飲みの席だったからでしょうか。

常見さん:そうですね。昼間の社内だったら、釈明面談みたいになっちゃうし、ざっくばらんな席だったからこそだと思います。

常見陽平氏常見陽平氏

分かり合えなさそうな人とでも、お酒を介することで仲良くなれると思いますか?

常見さん:完全にわかり合うのは難しいけど、理解が深まることはありますよね、きっと。

飲み会の是非を問う時に、わかりあえるかどうかっていうのは一つのポイントだと思います。会社としては社員に方針をわかってもらいたいし、上司と部下の間でもっとコミュニケーションをとってほしくて飲み会をする。でもうまくいっていないところが多いんじゃないでしょうか。

常見さん:そもそも会社がうまくいってないんでしょうね。不満はないけど愛もない、みたいな。好きじゃないけど、お給料ももらっているし、条件もまあこの程度ならいいでしょって思ってる。
やっぱりさっきも言いましたけど、お金を払ってまでコミュニケーションをしたいかどうかなんですよ。強制でなければ 3,000円払って飲み会に参加するってなかなかの決断だと思うんですよね。

アイデアが生まれにくい環境の中、
オススメするのは雑談・相談・漫談

確かにそうですね。でも最初は乗り気じゃなくても先ほどのお話のように、飲むことで心が通いあったり、距離が縮まるみたいなことがあったらいいなと思って飲み会を開いていると思うんですよ。

常見さん:好きでも嫌いでも相手に関心を持てるかどうかが大事ですよね。あとは上司の誘い方もあるし、誘われやすい上司になることも重要かもしれない。
でも今って、ミスしないような指標が設定されているので、上司の方も挑戦意識が希薄なんです。チャレンジしたことをもっと評価するようにならないと成功体験って出てこないですし、成功体験も語れない上司と飲みたいと誰も思わないですよね。

常見陽平氏常見陽平氏

常見さんは労働社会学を専門にされていますが、今の日本は挑戦しづらい社会だと思いますか?

常見さん:そうですね。その根本には日本経済の閉塞感があると思います。変えなきゃいけないというのはわかっていても、今を回すことに精一杯で、仕事の量も多いし、働き方改革でむしろ忙しくなっている現実がある。そうなると新しいチャレンジもできないですよね。昔のリクルートって相談・雑談・漫談から新しいアイデアが生まれていたんですよ。

相談と雑談はわかりますけど、漫談って(笑)

常見さん:笑える話ということね。雑談は常にしていて、“これ面白いですよね、知ってます?” とか “他の事業部にこんなことしてるやつがいるんですよ” とか話しているうちに、ポンとアイデアが生まれるんです。今はいろんなツールがあるから面と向かってやるかは別として、そうやって言葉を交わすことで活気づくし、仲良くなるし、さらにアイデアも生まれますよね。大事ですよ、3談。

今を回すことで必死になっていると、そういう余裕は生まれませんよね。

常見さん:飲み会に話を戻すと、雇用問題と飲み会って関係してるんですよ。
今って会社にいろんな人がいるじゃないですか。正社員だったり、契約だったり。お給料も条件も違う中で、みんなで集まって飲もうっていうのがむずかしくなったんです。昔はみんな正社員でしたからね。じゃあ、正社員だけで集まろうっていっても、それはそれで角がたちますし。

子育てや介護をしている人がいたり、業務以外で会社の人とあまり関わりたくないとか、たしかにみんな状況も考えも今って違いますよね。そのあたりの多様性の話は、他のインタビューでも常に出てきます。

常見さん:雇用格差に関しては、解決策として決裁権を下の人に渡せばいいんですよ。飲み会予算を各課に分配する企業も散見されます。バンダイもそうでしたね。入社する前にバンダイの社員と飲みにいったら、入社5年目くらいの人が会社のカードを切っていたのは衝撃でした。

常見陽平氏常見陽平氏

どうしたら、常見さんが感じていたようないい飲み会が増えると思いますか?

常見さん:飲み会委員みたいな担当を作るといいですよね。若手を幹事として立てて課を超えて飲み会を企画するといった。

若手はそれを負担に思うケースが多いようですが…。

常見さん:おっしゃる通りなんですけど、それはやらされてるからでしょうね。俺たちで盛り上げようやって、そんなやりがいが感じられるのがいい職場なんじゃないでしょうか。
まあでも、世の中にみんなが参加したいと思えるようなよい飲み会が増えたらいいなと思います。若者の○○離れ的な話って単に選択肢が増えたというだけなんですよね。飲み会行かなくても交流できるじゃんとか。飲まなくていいじゃんっていう選択肢が出てきて、交流の仕方が変化しているんじゃないかな。

交流はいいけど “飲み会” がイヤなんですね、きっと。

常見さん:会社は会社で努力する必要があるけど、若者もイヤがっているだけじゃなくて、自分がいる場所に嫌いじゃない要素を探した方がいいと思います。
会社全体を好きにならなくていいんです。全部嫌いってあんまりないと思うんで、好きになれるものを探してみようよと。仕事自体とか仲間とか環境とかなにかあるんじゃないですかね。そうすることで、意識も変わってくるんじゃないでしょうか。

常見 陽平氏 インタビュー

本日はどうもありがとうございました。

聞き手:井澤 博(宣伝ファクトリー) 
文:和谷 尚美(N.plus)
取材日:2019年4月7日

常見 陽平

常見 陽平

千葉商科大学国際教養学部専任講師/働き方評論家/いしかわUIターン応援団長。一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。大学生の就職活動、労使関係、労働問題、キャリア論、若者論を中心に、執筆・講演など幅広く活動中。

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